『福家警部補の再訪』(大倉 崇裕)


『福家警部補の挨拶』に続く、福家シリーズ第二弾。もちろん倒叙形式。


「マックス号事件」
  客船が舞台。ハラダ警備保障の社長、原田が邪魔になった直己を殺害する。

「失われた灯」
  脚本家藤堂が役者志望の三室を利用し、アリバイのため狂言誘拐を装う。

「相棒」
  漫才師山の手のぼりこと立石は、相方くだりこと内海が解散に応じないことから殺害を企てる。

「プロジェクトブルー」
  玩具メーカー「スワンプ・インプ」経営者の新井。弱みを握った西村の工房外で、車に轢かれたように偽装するが…


 一番印象に残っているのは「相棒」。殺害される瞬間、全て悟っていた内海が切ない。


 相変わらずキャッチーなキャラの福家警部補ですが、実に淡々と推理が進む。情景を映像にしたらきっとそんなことはないのだけど、静謐な印象なのだ。
 このことについては、神命明さんという方の解説が素晴らしいのでそちらに譲ろう。


 そこまで「驚愕のどんでん返し」みたいなのはないけれど、小さな小さな事実のほころびを綿々と積み重ねていく様はとても楽しい。
 小さな事実のほころび、というのは、ある種派手なトリックより用意が難しいのじゃないかと思う。そこで生きているのが大倉さんの調査力というか、オタク力なのかなと。


 最後のフィギュアあたりはもともと詳しいだろうから、改めてリサーチはいらないのかもしれないけど、特別マニアじゃなさそうなジャンルに関しても、細かいところを突いてくる。なんというか「徹底的に調べる」というだけなら、努力でできるところもあるんだろうけど、多分「このジャンルでマニアっぽいくすぐりはここだな」というツボがわかるんじゃないかなー。


 大倉作品でいつも思うことだけど、読んでいるとすぐに映像が浮かぶ。そのままドラマ化できそうな感じなんだよね。
 ところで『福家警部補の挨拶』の「オッカムの剃刀」が永作博美主演でドラマ化されたやつをまだ見ていないのだった。じっくり観ようとするとなかなか時間が取れない子育て家庭の悲しさよ。この連休中に観る予定だけど、どうなるかな。