『ベルカ、吠えないのか?(古川 日出男)』


ベルカ、吠えないのか?


軍用犬の子孫達の視点を通じて描かれる戦後の歴史。そして1990年代のシベリアで、地球儀にイヌの頭骨を入れた老人が動き始める。


『アラビアの夜の種族』を思わせる、壮大な世界観を描きつつもするすると読ませる語り口。最初に登場する四頭の軍用犬からどんどん派生し、どのイヌがどの系統でどのエピソードを持つのかは途中で追いきれなくなるが、それは何匹かのイヌというより、イヌ族の生命力の脈動となる。人間に忠実で、たとえ裏切られても、また過酷な状況におかれても雄々しい。いくつものエピソードが折り重なるが、とりわけ印象的なのは母犬たち。


冷戦時代の史実には疎いのだが、注意すべき事件だけがほどよく説明されるので読みやすい。なんといっても主役はイヌであるのだし。


この物語では数少ない(主要な)登場人物のひとりである、肝っ玉も体格もふてぶてしい少女(?)がまたすごい。普通なら悪役になりそうなキャラなのだが、激動の時代においてはイヌ達とひけをとらない力強さが強烈で魅力的。彼女の過去のエピソードとかいつか読んでみたい気がする。


その気になったらもっと長々と話は書けそうなのだけど、そうなったらもっと冗長になり中だるみしたのではないかと思う。作中のイヌたちのように贅肉をそぎ落とされた様は実にカッコいい。