『子どもに本を買ってあげる前に読む本―現代子どもの本事情』(赤木 かん子)


えー、あえて今日は、本の話を。


おとなが面白いと思う本が、子どもたちには面白くなくなってきているのです。どんどん変わる本の世界を、常に子どもの本をウォッチングしてきた著者が案内します。全国の学校図書館を改装してきた達人が教える子どもの本の選び方。


…というのがamazonの説明なわけですが、多分帯とかにそういう情報があったんだろうなあ。図書館で借りたから帯はない状態で読んだけど、書いている人がどういう人なのか全然説明がないまま「おとなが面白いと思う本が、子どもたちには面白くなくなってきているのです」といきなり熱弁を振るわれるので、ちょっと引いてしまう。編集がなんとかするべきだったんじゃないのか。


タイトルから、まさに子どもに買う本の参考にしようと思ったんだけど、幼児向けの絵本ではなく、小学生〜中学生が対象のようで、ちょっと早すぎました。
ただ、もともとの目的とは違うところで興味深いところがあった。


1999年に登場した『ハリー・ポッター』シリーズが、どう画期的だったかという話。単純に、今まであったファンタジーを今っぽくリライトしたわけではないんだね。
子どもの本では、10歳までの文学は、主人公が成長しないのが決まりなんだそうです。なぜかというと現実の子どもたちはそんなに早く成長できないから。つまり『ドラえもん』ののび太や『サザエさん』のカツオってことだね。厳密にはドラえもんは最近変わりつつあるような気がするけど、詳しくないのでここではおいときます。この「決まり」はなるほどなーと思った。逆に言うと、もう少し大きい子たちは「成長=何かに苦しみ、悩み、その結果大きくなること」がテーマになってくる。
で、著者いわく『ハリー・ポッター』の主人公ハリーは、精神的には7歳くらいで、でも身体的には13歳として登場したと。ハリーは、困難に立ち向かっているようでいて、実は周りが助けてくれている=本人は別に努力せずに問題が解決する、というのです。
確かに、亡くなった両親の愛に守られて(しかも亡くなっているから口うるさいこととか言われない)友人に恵まれ、教師に恵まれ、天から授かった魔法の才能があり…なるほど、とりあえず周囲にはとても恵まれている。ただ、私は映画化されたのを3つくらい見ただけなので、実際そこまでヒドイ…いや、著者の指摘に合致しているのかは定かではありませんが、ある程度は当たってそうだなと思った。ちなみに、ハリーポッターを読んでないのは、日本語訳者にお金を払いたくないのが理由のひとつです。とある翻訳家の方から、その人が翻訳を馬鹿にしているような発言をしたと聞いたので。読むなら原書で読みたいけど、英語で読むほどのモチベーションがあんまりないんだよね…


閑話休題。つまりは「努力しなくてもいいハリーが子どもたちにウケたのに、往年のファンが(成長がテーマ=主人公が苦悩する)『ゲド戦記』を読めと子どもたちにおしつけたってダメ」ということです。ただ、ハリーポッター読んで物足りなくて、ゲド戦記読んで感動する子どももいないこともないと思うけどなあ。…というのが既に大人の発想なんすかね。


それから「ミステリーに夢中になる年代は今は中学二年生くらいまで」という話。著者が作るミステリのコーナーに置いた、クイーンやクリスティやホームズが全然読まれないのだとか。その原因を著者は、たまたま話した男子高校生の意見である「犯罪が登場する物語は面白いけど、別に解決しなくてもいい」という言葉に見いだしています。これは正直、ちょっと極端な解釈じゃないの?と思うけれど。まあ、この著者は全般的に、一旦思いついた見解で突き進んでいるような傾向があるかも…いや、実際にこどもたちと向きあってきたという実績は素晴らしいですけどね。


ミステリー関連では、はやみねかおるの名前が目立つ。私はファンなので、青い鳥文庫の棚を見かけるとはやみね作品が何冊並んでるか見てしまうんだけど、でも客観的には何人もいる児童文学作家の一人なんだろうな、と思っていた。いやいやそんなことないんですねー。見くびってましたすいません。


中二までとされるミステリーに夢中になる年代にはもちろん夢水が読まれているんだけど、その上の年齢にアピールしたのが『都会のトム&ソーヤ』。大人向け講談社ノベルスで出した『虹北恭助の新冒険』というシリーズは、最初主人公が小学六年生だったときはウケなかったけど、高校生になったとたん、五・六年生にファンクラブができたそうな。これの解釈は「小学六年生の乙女はタメの男子が嫌い」これは至極真っ当な解釈だね。そりゃーそーだ、自分を振り返っても、小学生が主人公の話なんて読まなかったもんなあ。っていうかあったっけ?ってぐらい。


ちなみに、ミステリーは少し復興してきていて、今小学校高学年では『IQ探偵ムー』が人気なんだとか。知らないなー、と思っていたけど、書いてるの深沢美潮なのね!案の定「イラストは今風でカッコいいけど、お話はええ?ってくらい古めかしい」のだそうです。そうだろうなあ…って、深沢美潮作品読んだの何年前だかわからないくらいだけども。
このあと、マンガやドラマなどメディアミックスな感じでミステリーが復興してきたという話を書いているんだけど、ここの説明、結構文章ちらかっててわかりにくい…著者自身は図書館の専門家であって文筆業ではないから仕方ない、とかなのかなあ。なら編集もっとがんばってくれ…。


えーと、この本は、今のこどもたちと大人たちのギャップについては勉強になるんだけど、じゃあどんな本を買ってあげたらいいかは正直答えは載ってません(笑)