『氷菓』(米澤穂信)

氷菓

 無駄なことはやりたくない省エネ主義の折木は姉の命令で古典部に入った。古典とあまり関係のない事件にいろいろ巻き込まれつつ、古典部が代々出していた文集の名前『氷菓』にまつわる33年前の過去の事件に迫る。

 現在一般向けミステリで注目されている米澤穂信スニーカー文庫で書いた作品。なるほどラノベよりはやはり一般向けで良さが出る人なんだな…。

 キャラクターは紹介だけ読むと、それなりにラノベっぽさがあるのだ。「省エネ」が信条の高校生は変わったキャラではあるし(ラノベ方面で珍しいのかは情報がないけど)主人公と対照的にいろんなことに積極的な福部、好奇心いっぱいのお嬢様千反田、口が悪い女子伊原、と材料はそろえているんだけど、なんか料理しきれていない。スタンダードに持っていくなら折木と千反田に恋愛要素があるのが普通だけど、かなり想像力を動員しなくてはそうは読めないのだ。
 あと「省エネ」が実はすごく描きにくい特徴なのがまた難。エピソードが作りにくいのだ。たとえば「どんな部活にも彼は絶対入らない」みたいだとわかりやすいけど、誰かが言うことに反発するのはエネルギーが必要だから省エネ少年は結局みんなの要望どおりにする。つまり本人の行動を取り出すとわりと普通になってしまうのだ。このアンビバレントはそれはそれで面白いんだけどさ。
 それから、文章が一般向けと全く変わらない。他のラノベスニーカー文庫に比べて文体が堅すぎる気がする。とはいえ最近のラノベそんなに読んでないからわからないけど。折木はそういうキャラクタだとしても、それなら一層周囲の人物はもう少しはっちゃけてる方が折木の特徴を強調できるのではないか。

 そんなわけでキャラクタの造詣はちょっと中途半端なのだが、本格ミステリとして捕らえるなら、スニーカー文庫としてはそれこそ無駄なくらい頑張っている。古き懐かしき「日常の謎」がこんなところに!最初の二編がわりと面白かった。が、一番重きをおいていると思われる『氷菓』の事件が正直あまり…っていうか(ネタばれ→)それと氷菓は別物ですから!乳脂肪分が足りませんから!(←ネタばれ)というのは置いておくとしても、狙いがよくわからない。

いきなりこの作品から米澤穂信を読むよりは、一般向けを読んだあとに、こんなのも書いていたのかと振り返るほうが有意義かもしれない。