『死神の精度(伊坂幸太郎)』

死神の精度

意外にもなかなか気に入りました。


「死神の精度」表題作にしては小粒な仕上がりで、ちょっと安易な感じ。ただ逆に、これ以降の話が切れ味よくなっているのはここで失敗したからかもしれない(失礼ですいません)。


「恋愛で死神」構造がすごく凝っているわけではないし、素顔がもてすぎて普段はメガネをかけているキャラなんて冷静に考えるとどうよ?と思うにも関わらず、印象に残る。
納得できない不満を凌駕する美しい物語。
この辺で(ネタばれ→)「可」を出し続ける話がつらくなってきた。せめてちゃんとストーカー側も殺してくれよと思う。(←ネタばれ)
でもそうすると小説としては野暮ったくなるんだろうなあ。


「旅路を死神」意外な真相自体が悪いわけじゃないけど、そうなったシチュエーションがよくわからない。発想としては突飛だなあ。もうちょっと伏線置いてほしかった。想像するべきなのだろうか。


「死神対老女」面白かったのだが、(ネタばれ→)老女の過去の姿ともう少しリンクがあってほしかった。過去のエピソードの彼女は、あんまり洗練された感じではないわけで、間を全部書くわけにはいかないにしろもう少し線が想像できる点となるエピソードがあってもいいのでは。それから、時代背景があんまり出ないのも気になる。辻褄を合わせたことが露骨過ぎるのはもったいない。(←ネタばれ)
しかし、景色の良い、僻地にある美容院、(ネタばれ→)死神が晴れを目にする瞬間(←ネタばれ)など、印象的なシーンが多く、爽やかに悲しい作品。


評判から、ミステリ色を期待せずに読んだのがよかったのか、なかなか好感度高いのでした。今まで読んだ伊坂作品は、「賢い」設定のキャラクタに好感が持てないことが多かったけれど、今回の千葉ちゃんは人間界に慣れていないせいかちょっとボケてるところがしっくりきたのかもしれません。
なお、作品柄しょうがないのかもしれないけど、無実の人を都合により死なせてしまうのはほどほどにしてほしいなあ。あと、死神のルールを利用したトリックはもう少し出来そう。続編求む。