『弥勒の掌(て)(我孫子武丸)』

弥勒の掌(て)

この本、厚さのわりに本編のページ数は意外とないのね。驚かせたところでしゅっと終わる、ちょうどよい長さのミステリです。
語り口はサスペンスですが、なるほど本格ミステリマスターズだ。

以下、一応ぼかして書くけど内容に触れます。ちなみにこの作品は、ネタばらしがとても簡単なので、未読でばらされたくないひとは、特にばらすという注意書きがなくても感想には近寄らない方が無難だと思う。



という私も評判はいろいろ読んじゃっていたわけですが、中盤まではほとんど気づかずに読み進めることができました。刑事の奥さんが後妻(←ネタばれ)なのとか、(ネタばれ→)いちいち日付が書いてある(←ネタばれ)のとか、気になりつつも。ただ、(ネタばれ→)残り枚数&近年の傾向から(?)すると、目次から既にある程度、推測が可能に(←ネタばれ)なってしまうわけで、それを上手く隠しながら、読者を物語に楽しませる筆力はなるほどさすがだなあと感心してしまった。

そして怪しげな宗教団体が素晴らしい(というと語弊がありそうですが)。普通の新興宗教団体とはちょっと違うんだけど、いったい何が違うのかがなかなか提示されないまま「教師」と一緒に読者は翻弄される。(ネタばれ→)この仕掛け、確かにもう簡単なんだよなあ…本当に誰かやってるんじゃなかろうか。過剰に搾り取らないことで発覚しにくいのもリアルで怖い。ただ、思ったのは、もちろん手段は犯罪なんだけど、これで必要以上のお金を取らず、騙されている人にそこそこ適切なアドバイスができるなら、実はわりと役にたっちゃうということで、ぶっちゃけこういう探偵集団って設定はマンガならおおいにありそう。実際、謎解きシーンの途中ではそういうオチなんだと思ってました。(←ネタばれ)

最後に気になるのが、(ネタばれ→)愛蓮たんの過去がどんなえげつないものだったかってことである。(←ネタばれ)いつかこっそり作品になるといいなあ。彼女だけじゃなく、我孫子作品はやはりキャラクターが際立っているなあと思うのであった。