『生首に聞いてみろ』(法月綸太郎)

生首に聞いてみろ

 いきなり変な比較かもしれないが、この年の本格ミステリとして話題に上ったもう一冊の『暗黒館の殺人』に比べたら、文章は格段に良い。というより個人的には暗黒館の冗長さは「問題外」だったので(とりあえず文章についての話)。ちゃんと読めるってすばらしい。
 人間の直接型取りという手法はすごく興味深く、ミステリじゃなくてもいろんな話が生まれそうな題材だと思う。ところで、読売新聞のインタビュー*1

いかにもこの作家らしい批評性が、事件の重要な要素となる米の彫刻家ジョージ・シーガルについての蘊蓄(うんちく)部分だ。人間の直接型取りという手法で論議を呼んだシーガルになぞらえ、作家は暗に、英米ミステリーの模倣としてスタートした日本ミステリーの存在意義を問いかけているからだ。

みたいなことが書いてありますが、そんな問いかけがあったとはちっとも知りませんでした。昔からのファンはきっとその辺大事なのでしょうが、私は著者の悩みにはあんまり興味がないカモ。
 静かな筆致で描かれる物語の構成は面白かった。ただ「他のところをこんなに緻密に考えているのになんで?」というほどおざなりに思えるところがあって、なんかスタミナもたなかったのかな…などと思いました。あと、美術にまつわるあたりは面白い代わりに、その他の動機やエピソードがとたんに野暮ったいのはなんとかならないのかなー。もったいないなー。
 ところで、私が一番気になったところについてネットの感想で書いている人を今のところ見つけられていないのだった。そういう揚げ足とりは無粋で下品なのは確かで、別にいなくてもいいんだけど、自分が何か見落として勘違いしているのかが気になる。のわりに読み直すエネルギーは全然ないのでした。
 気に入った人がとても多いことには十分納得できるけど、個人的には今ひとつ。