『月曜日に乾杯!』(監督:オタール・イオセリアーニ)

 大いに面白かった。120分以上あって、お話自体はそうダイナミックな起伏はないんだけど、メインのおじさん以外のキャラクタがたちまくってて全然飽きない。
 コントかと思うほどビビッドな色の粉塵が舞い上がる工場で働く男。日本だとグレーの背広着たサラリーマンがスタンダードなんだろうけど、もう少しブルーカラーよりのおじさん。毎日同じように続く通勤に飽き飽きしている。どーん、って感じの体系のおかみさんとおばあちゃん、子供は男の子が二人。父親が話しかけても趣味に夢中であっちいって、って言われちゃうあたり、どこの国も変わらないなあ。
 平和な家族の一日が紹介され、次の日の朝、おじさんは会社の前で足を止め、仕事を放棄してしまう。早速旅にでるのかと思いきや、おじさん不在のまま他の家族と周囲の隣人との関係にスポットが移る。移る移るあちこち移る。個人的には、青春中の長男萌えです。彼女の機嫌を上手く取れず、送っていったけど不機嫌なままの彼女がするっと家に入ってしまった後を、名残惜しそうに観ている姿が印象深い。絵を描いたり何か工作したりするのが上手い、そして優しい男の子は地味だけどかっこよくて、それを手伝う彼女もすごく素敵だった。二人で手作りハングライダーだなんて。
 で、大分寄り道したところでなんやかんやあっておじさんがベニスに行くわけです。出会ったイタリア人のおじさん(カルロだったか?)と仲良くなる様はとても微笑ましい。あと父親の知人のみえっぱり伯爵が面白い。ここだけシチュエーションコントじみていたり。一番笑ったのはカルロの家のエピソード。だらだら飲んでいるとおかみさんと娘さんは露骨に嫌な顔。よっぱらったカルロを面倒くさそうに寝室までひきずったおかみさんが「ベッドに運んで!」のひとこと。もう運んだのに?字幕遅れてるのか?とか思ったら、娘二人が客人のおじさんの両脇かかえてベッドに放り出した。酔っぱらいは全部お荷物か。でも実際自分があそこんちの娘だったら大層不機嫌だろうなあ。
 おじさんはそのあとあちこちの国にいったらしいのだが、それがわかるのは旅先で書いたイラストはがきだけ。エジプトとか。まあ、どこも庶民の生活は大して変わんないのよ、ってことかな。ある種潔いかも。
 家に帰ってきたときのおかみさんはいつもと変わらず、でも朝になったら車を洗っててくれてた。おおげさじゃない暖かさ。車を送り出したところで、隣の奥さんと顔を見合わせる。すごくよかった。
 波乱万丈の物語じゃないけど何故か引きつけられるいい映画でした。さんざん載ってるありきたりなコメントでアレですが、特別じゃない日々の生活がいとおしくなる作品。